新聞サークル アサリから考えたこと

常石小学校では、毎日児童全員に小学生新聞を配っています。
子どもたちが朝登校すると、低学年も高学年も全員、児童机の上に新聞が届いています。
朝のサークルで読むクラスもあれば、国語や社会の時間に活用することもあります。

低学年のあるクラスの新聞サークルの出来事をご紹介します。
新聞サークルで話した新聞記事は、スクラップブックにまとめています。
2月9日(水)の毎日小学生新聞に、こんなことが書かれていました。
「熊本県産アサリ出荷停止 外国産の可能性」という見出し。
農林水産省は熊本県産として流通するアサリの大半が、外国産の可能性が高いと発表しました。
熊本県の年間漁獲量21トンに対し出荷量が2485トンもあったこと、DNA分析で外国産と判明したこと、無関係のハマグリも風評被害にあっていることが分かりました。


記事に目を通すやいなや「うそつくなんて最低!」「私たちをだまそうとしていたのかな?」「うそをついたらピノキオみたいに鼻が伸びるんだよ」と怒りの感想がたくさん出ました。
落ち着いたところで、記事に書いてある内容から、気になったことを口にし始めます。
「くまもとは、友達が転校していった町だね」「どこかな?」
3年生が、地図帳を持ってきて熊本県を調べはじめました。
「アサリは海で採れる」「(隣接している)みやざきの方は、山だからアサリはいない」
その時、ハマグリという言葉を聞いた一年生が「ハマグリ知ってるよ。1学期に読んだから」
と言って、国語の教科書を持ってきました。
「うみのかくれんぼ」のハマグリのページを指さします。
2・3年生は「そうそう!そういえば1年生が音読していたね」「ぼくも1年生のときにやった!」
新聞のアサリと教科書のハマグリの写真を見比べて、同じ貝の仲間であること、姿が似ていることを知りました。
他にも、トンとキロはどちらが重いのかなども話題になりました。
3年生の算数で「重さ」を勉強したばかりでした。
「アサリははかりで計れる。キロは体重の単位だから、はかりじゃ無理かな。体重計!」
「トンはそれより重いと思う」「トラックにトンって書いてあった」
「トンはわたしよりも重そう」

そんな中、ある3年生から、問いが出ました。
「どうして外国産と偽ろうとしたのかな?」
「ハマグリや魚など他にも魚介類がいるのに、どうしてアサリを偽ろうとしたんだろう?」
みんなに問うと、「たくさんアサリが獲れることを他の県に自慢したかった、いばりたかったから」「アサリを売ってたくさん儲けようと思ったから」と予想しました。
「お家でアサリが出るときはどんなメニューかな?」と担任が聞いてみたところ、
「パスタ」「炊き込みご飯」「みそ汁」などメニューがいくつか思いつくようですが、
ハマグリのメニューがなかなか出てきません。
「アサリかハマグリだったら、アサリの方を家でよく食べる。だからたくさん売れるほど、他の貝よりも儲かるのではないかな」
「外国からアサリを連れてくるのが簡単だったから、うそをつきやすかったんだと思う」など、低学年なりに、この社会問題に対する意見がたくさん出てきました。

 

「農林水産省って初めて聞いたけどなに?」という疑問も出たので、6年生の社会の教科書を使って、内閣についても調べました。
「内閣の一番上にいる人は、内閣総理大臣っていうんだけど、日本のリーダーの名前は知っている?」この1年間たくさん新聞を読んできたので、「岸田さん!」と元気に答えました。
農林水産省だけでなく、組織図の他の省庁が目に入った3年生は
「今回の話だと、うそのない取引のことを言っているから、公正取引委員会も関係あるような気がする」と興味を持っていました。
内閣の隣のページに偶然、国民の祝日の一覧が掲載されており、2月の祝日についての勉強にもなりました。

下学年の学び直し、上の学年の学習内容に自然と触れることができるのも、異学年集団で生活することの良さだなぁと感じています。

突然国語が始まりました。
DNA判定で本当の生産地が分かったことから、ここで一句。
「れいわだと かがくをつかい ウソばれる」
ハマグリがかわいそう!と、ここでも一句。
「何でなの はまぐりまでも うたがうの」

子どもたちは教科横断的に、さまざまなことを考えているのだなと改めて分かりました。
「一句できたから見てー!」と言われ、担任は笑いをこらえきれませんでした。

翌日、読売小学生新聞にも同じ内容の記事が載っていたので、読み比べをしました。
まず注目したのはグラフです。北海道・愛知・熊本それぞれの県のアサリの漁獲量と販売量の差を表しています。
「差ってちがいでしょ?ひき算でわかる。先生、いつも1年生にひき算教えるときに“ちがいは~”って言っているよね」と3年生。
グラフの読み方が分からない1年生も初めて筆算を使って漁獲量と販売量の差を求めました。
間違って北海道と愛知の漁獲量の差を求めようとする場面もありました。間違うことも勉強なので、ここはあえて見守りました。

 

「“不自然”ってどういうこと?」「“なんか変じゃない?”ってこと」「あー、“おかしいよね”ってことか」
「国産ってなに?」「遠くで採れた?」「国は日本ってこと」「日本で採れたってことかー。」

「地図見て!」「中国と韓国は地図で見ると近い」「地図見たらアサリを外国から持ってきているのが絵で描いてある」
「地図、地図…」というやりとりをずっと聞いていた1年生。自分の新聞の地図の横に「ちず」と静かに書いていました。

イラストでこの問題を解説してくれた子もいました。


子どもの対話を聞いていると、面白い教え合いがいくつもあります。どちらの子も教えてあげる、とか、教えてください、という感じではなく、自然と対話を通して考えを深めたり、言葉の意味を獲得していく様子が見てとれます。

別の新聞を読むことで、なぜ産地を偽装したのか、という問いの答えの一つが見えてきました。
「国産は安全で高品質であるという消費者イメージが強いために人気が高い」と新聞に書いてあり、偽装の原因の一つではないかと考えました。

この話をしている時に、自分なりに考え終わって、もう終わりにしたいと思った1年生が「自分の勉強を進める」と言ってサークルを離れていきました。
活動のすべてを全学年の全員で進めることは、発達を考えても難しいと思っています。
自分がもういいやと納得したタイミングで、自分の仕事(学習)に戻っていきます。
子ども自身が決めたタイミングや、個のペースに合わせて、活動に無理がないように心がけています。

残った3年生で対話が続きます。
「でもぼくは熊本のアサリよりも気になったことがあるんだよ」
「なに?」
「北海道と愛知は、販売量よりも漁獲量がすごく多いけど、これは採ったアサリを捨てているってことだよね。食品ロスになるってことだから、SDGsの2番とか12番が守られてないよ!」
この問いについて考える時間は、残念ながらなかったのですが、またどこかのタイミングで対話ができればいいなと思っています。

ある保護者の方から「新聞の記事を子どもに聞いても、あまり内容を理解していないようだ」というご意見をいただいたことがあります。
確かに低学年では、記事の内容をすべて理解することは難しいと思います。
しかし、記事をきっかけに、自分の知っていることとつながる、自分の体験とつながる、そして、友達の意見を聞いて考えを深めていくという活動が、とても大切なのではないかなと考えています。
さまざまな教科とつながるだけでなく、自分と世界が実はつながっているのだと気づくことができるのではないでしょうか。

このクラスでは、小学生新聞のスクラップブックを1冊使い終わりました。
2年生が「この時こんなこと考えたね!」と思い出しながら見返していました。
子ども達にとって、一年間の宝物になったなと感じています。

2022年02月15日