五感を使って加速する探究、深まる教科の学び

11月28日に,低学年の催し「KIDUKU~小さな菌の大きなチカラ~」を行いました。
今回の探究テーマは,自分の体をつくるもととなる「食」や「生活習慣」に関心をもつきっかけにしてほしいと考え,設定したものです。
しかし,菌そのものの姿を肉眼で見ることは難しく,低学年で探究するテーマとしてふさわしいのか悩むところもありました。
そこで,出前授業や見学を依頼したり子ども達の問いをもとに調理や実験をしたりするなど,五感を刺激しながら一次情報が得られる活動を積極的に取り入れることにしました。
今回は催しを終えて,2つのエピソードをもとに振り返ったことを紹介します。

 

エピソード1:おなかスッキリメニューを作ろう!〉
「菌で料理」グループは,「おなかスッキリメニュー」を作り,催しでは「おなかスッキリカフェ」を開きました。
家で料理の手伝いをすることはあっても,自分達でレシピを読んで調理をする経験の少ない子ども達です。
分からないながらも楽しく作り始めた子ども達でしたが,調理や片付けが時間内に終わらなかったり,材料の計量を間違えたりと,上手くいかないことも多くありました。
そんな時には,教科の学びを活用するチャンスです。算数の「重さ」や「時間」の学習,「3倍」や「12等分」といった言葉の意味を確かめました。
レシピや量りを正しく読むことや時間を意識して調理をする中で,分担をしたり,使った物はすぐに片づけたり,そもそも洗い物を少なくしようと工夫したりするなど,だんだん手際もよくなっていきました。
実際に調理をして食べてみると,
「(りんご酵母パン)本当にふくらんだ!」
「(甘酒ケチャップ)砂糖を使ってないのにあまい!」とビックリ。
「酵母について詳しく調べてみよう!」
「甘酒も作れるのかな?」と新たな問いも生まれました。
そこから,夢中になって本やインターネットなどの2次情報で調べる子ども達。
漢字が読めない1年生も,周りの人に「この漢字,何て読むの?」と尋ねながら,ぎっしりとメモをとっていました。
「発酵」や「酵母」「免疫」「食物繊維」などの難しい言葉も,実物を見たり実際に体験したりすることでイメージをもち,少しずつ自分の言葉として獲得している姿がありました。

 



〈エピソード2:腸の長さは6m,体の中には100兆の菌!〉
11月中旬にブロックアワーで長さの学習をしている時のことでした。
本当は「7㎝」の直線の長さを「7m」とプリントに書いている同じグループの子に対して,「7mだったら小腸と大腸よりも長いってことだよ!!ほら!!(教室の掲示を指さす)」「そっか!!(慌てて書き直す)」というやり取りを見かけました。
思わず笑ってしまいましたが,その感覚って大事だよな~と感心しました。
ヤクルトの出前授業では,6mの腸がビヨーンと飛び出す人体模型を見せていただきました。もう2カ月前のことですが,そのことが感覚として残っているのだと思いました。
一方「100兆」は,大人になっても感覚をつかむことが難しい数です。
それでも「100兆」を想像しながらペットボトルのキャップを数えることが,
「10のまとまりができると位が上がる!」
「『一十百千』の繰り返しになっている!」と十進法の仕組みについて考えるきっかけになりました。
「100兆」まではたどり着きませんでしたが,世界の人口よりも体の中にいる菌の方がはるかに多いことに,改めて驚かされました。

 

 

ワールドオリエンテーションをしていると,ブロックアワーでしている教科の学びが生活の中にあふれていると気付かされます。 

教科書には出てこない難しい言葉や数に出会うこともありますが.体験を通して意味が理解できると,面白さが見えてきます。また反対に,ワールドオリエンテーションの中でつかみとった言葉や数が,ブロックアワーや日常生活などの必要な場面で生かされていることもあります。

 

催し後には,催しとこれまでの探究の過程についてリフレクションをしました。「小さな菌の大きなチカラ」について自分の言葉で表現しました。

 

~子ども達のリフレクションから~
“はっこうパークではいろいろなことを学べました。
たとえば,はっこうは,どうぶつやしょくぶつ,人間にとってたいせつなこうかがあります。はっこうの力で,大きくそだったやさいもありました。
りょうりグループでは,あまざけケチャップナポリタンをつくりました。
むずかしかったけど,みんなできょうりょくすればできるなと思いました。
あまざけはあまいけど,さとうは入っていません。
さとうがはいっていないなんてしんじられませんよね。
でも,あまざけはこうじきんの力でおこめがあまくなっています。”

 

“ぼくは,ヨーグルトケーキを作ってきました。
ヨーグルトに入っている乳さん菌という菌には,べんぴのよぼうと,がんのよぼう,いえんを起こすピロリ菌をはいじょする力があるとけんきゅうされています。
乳さん菌のなかまが入っているヨーグルトもあります。
ぼくは,ヨーグルトケーキを作って食べてみて,すごくおいしかったです。
菌が入っているというかんかくは全くなくて,それでもいいこうかがあるのがすごいと思いました。”

 

 

これからも目には見えなくても間違いなく存在している菌のチカラをふとした時に思い出したり,はっと気付いたりしながら,自分達の人生の中で役立ててほしいなと思っています。
そして,ワールドオリエンテーションでの探究とブロックアワーでの教科の学びを往還させながら,ともに「学びの面白さ」を味わい,深めていきたいと思っています。

 

探究の過程では,ヤクルトの方,日本醤油協会の方,水道局の方,給食センターの方にお越しいただきました。
お話を聞かせていただくだけではなく,低学年の子ども達にも理解できるように模型や実験などを準備してくださいました。
また万田発酵株式会社HAKKOパークの見学では,人間だけではなく,「発酵」が動物・植物にいい影響を与えていることを見せていただいたり匂いをかがせていただいたりしながら教えていただきました。
たくさんの質問にも,時間の許す限り1つ1つ丁寧にお話してくださいました。
ありがとうございました。

 

 

 


2023年12月19日