「教職研修」2007年7月号掲載記事より抜粋
ばらと教育のまち
福山市教育委員会教育長 橋 和男
1 都市間競争と学校教育
全国水準を確保して,市民から信頼されることはもとより,広く全国から評価される学校教育の充実を図り,本市発展の礎を築く。昨年7月,教育長に就任した私のミッションである。
中四国地方の十字路に位置する本市は,人口47万の中核都市であり,「世界に市場を求めて活動する企業の多さに驚いた。世界をにらむ元気な町だ」と赴任したての地元紙記者がコラムに書くなど,経済活動は好調である。
しかし,政令市の広島と政令市を目指す岡山との間にあって,都市機能の充実,都市ブランドの向上,拠点性と求心力の強化が求められている。
全国的にも高い水準にある本市の入所待機児ゼロの保育行政,小学校区毎に設置の地区公民館を核とする社会教育に加えて,全国から評価される学校教育にすることが,教育行政の課題である。
2 本市学校教育と是正指導
実は,本市教育行政は,平成10年に,当時の文部省から学校教育について異例の是正指導を受けた経緯がある。卒業式などの国旗掲揚・国歌斉唱,標準授業時間数の確保,道徳の時間の不実施,指導要録の未記入など,学習指導要領などの法令規則に照らして12項目の改善を求められるものであった。
そこには,児童生徒に差が付かないようにと学習指導を手控え,自助努力を促す指導を躊躇する学校教育に,市民の信頼が失われた状況があった。
本市教育行政は,この是正指導を契機に,公教育本来の使命に立ち返り,「確かな学力・豊かな心・力量ある教職員」を合言葉に,「市民から信頼される学校」を目指して全力で取り組んできた。
3 教育ビジョンと教育改革
平成15年,これまでの取り組みを踏まえ,「授業の質を高める授業計画ときめ細かな指導」「子どもの心に響く道徳教育と自律を育成する生徒指導」「専門性を高める研修センターでの各種研修と特色ある教育を推進する校内研修」「校長を中心とした学校マネジメントと教育公務員としての自覚と使命」を柱とする「福山市学校教育ビジョン」を策定した。
そして,多様な教育ニーズに応えるための中学校の学校選択制や中高一貫校の設置などの教育改革を推進してきた。
平成18年には,「教育ビジョンU」を策定して,今日的教育課題として「ことばの教育」と「キャリア教育」の推進を明示した。
4 「ことばの教育」は「心の教育」
教師 「あなたは,ばらの花が好きですか?」
児童 「はい,好きです」
教師 「誰が好きなのですか?」
児童 「私が,好きです」
教師 「どうして好きなのですか?」
児童 「豪華な感じがして,豊かな気持ちになれるからです」
教師 「では,まとめて言ってください」
児童 「はい,私は,ばらの花が好きです。わけは,とても豪華な感じがして,豊かな気
持ちになれるからです」
「ことばの教育」は,主語の明示,結論の先行,根拠の提示を指導し,論理的思考力と表現力を育てる。
「失礼します。2年1組の○○○○です。体育館の鍵を貸してください。これから体育の授業で使います」と,職員室で大きな声。
殴り合いの喧嘩をしていた3年生が,仲裁に入った6年生に,泣きながらも何に腹が立ったのかを一生懸命に訴える。
「ことばの勉強をして,友だちと色んな話が出来るようになり,人間関係が深まったように思う」と6年生。
これらの事例は,「ことばの教育」が,コミュニケーション力とともに心をも育てることを示している。
5 「キャリア教育」は「生きる力」
「働くことで,その仕事を好きになり,やりがいと誇りを持てることがわかった」。これは,中学2年生3800人全員が,昨年8月,商工会議所や地域の事業所1400箇所の協力で,全市一斉に取り組んだ「5日間の職場体験学習」の感想である。
「明日から来るな」と本気で叱られ,担当教諭の応援を得て謝罪し,最終日には「よく頑張った。来年も来ていいよ」と褒めてもらった生徒もいるなど,地域や事業所に総がかりで指導していただくことができた。
「従業員が中学生に刺激を受け,職場が活性化した」と事業所,「子どもが,今のままの自分では通用しないことに気づき,何事にも意欲的に行動するようになった」と保護者の声。今後も継続して取り組み,生徒の勤労観・職業観と生きる力を育てたい。
6 「ばらのまち」から「ばらと教育のまち」へ
本市は,戦後復興に立ち上がった市民が,「花こそ人の心をやわらぐもの」と平和の願いを込め,焼け跡にばらの苗1000本を植えたものが,今や50万本にまで増やされ,「ばらのまち」として5月には「ばら祭り」を催している。
私は,全国から評価される学校教育を実現させて,「ばらと教育のまち」と称せられることをめざし,本市発展に寄与したいと考えている。